はじめに
今回は、エンリッチド・エアSPを取った時の記録をまとめます。
こちらの特徴は下記。
・中ぐらいの水深で活動時間を延ばせる(20~30m)
・活動時間 = No Decoタイムを指す
・使うと深い所には行けなくなる(水深30m~)
こちらについて、詳しく解説していきます。
エンリッチド・エアについて
エンリッチド・エアは通常の空気より「酸素の割合」が大きい空気です。
通常の空気は「酸素割合21%」です。
なので、酸素の割合が「22%以上の空気」がエンリッチド・エアと呼ばれる空気になります。
エンリッチド・エアの正式名称は「エンリッチド・エア・ナイトロックス」です。
英語表記だと「Enriched Air Nitrox」です。
この頭文字をとって「EAN」や「EANx」と呼ばれたり…
また「ナイトロックス・ガス」や「エンリッチ」と呼ばれることもあります。
EANxの “x” には酸素の割合の数字が入ります。
プログラム的な言い方をするなら、変数「x」です。
→ 「EAN32(酸素32%)」や「EAN36(酸素36%)」
ちなみに、よく使われる酸素割合は「酸素32%」か「酸素36%」です。
メリット
メリットは水中で長い時間活動できる事です。
特に「20~30m」の中ぐらいの深さで効果を発揮します。
水中で長い時間活動ができる
=「No DECOタイムの延長」を意味します。
窒素による活動時間の制限について(No DECO)
ダイビング用の空気は、水深が深い所に行くと水圧で圧縮されます。
圧縮された空気を吸うと… 多めに “窒素” が体に入ります。
現実の空気の成分は…
・窒素 78%
・酸素 21%
・その他 1%
なので、ダイビング関係の活動時間や水深などの制限は…
大体「窒素」か「酸素」か「全体の残量空気」でかかってきます。
ーーーーー
※ダイビング用のタンク内の空気は人工的に作られてるので…
「窒素 79%」と「酸素 21%」と考えて大丈夫です。(多少の誤差アリ(1%以下))
そして、体に窒素がたくさん入ったら「減圧症」になるリスクが出てきます。
この減圧症を回避するためにNo Decoタイムという…
“窒素の吸い過ぎ” による活動限界時間が決められます。
基本的に、水深20m以内であれば普通のダイビングで気にする事はほとんど無いです。
が、私の体感だと「水深24m」を超えると、一気にNo Decoタイムが削られます。
DECOの詳細はこちらで解説してます。
では、このNo Decoタイムを伸ばすにはどうしたらいいか。
原因が「窒素の吸い過ぎ」なら、答えは「空気の窒素の割合を減らす」こと。
つまり、酸素の割合を増やす(エンリッチド・エア)を使うです。
EANxでDECOタイムはどのぐらい伸びるか
思ってる以上に伸びます。
とくに、中ぐらいの深度「20~39m」の間だと効果がよく出ます。
【水深22mでのNo DECOタイム比較】
・通常の空気 → 37分
・EAN32 → 60分
・EAN36 → 70分
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【水深30mでのNo DECOタイム比較】
・通常の空気 → 20分
・EAN32 → 30分
・EAN36 → 35分(酸素中毒的に非推奨)
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※PADIのダイブテーブルより引用
何故かダイブテーブル、空気だと22m → 25m → 30m。
EANxだと22m → 26m → 30mみたいな刻みで…
比較できるのが22mと30mだけでした。
ちなみに…
・水深25m+空気 → No Decoタイム = 29分
・水深26m+EAN32 → No Decoタイム = 40分
・水深26m+EAN36 → No Decoタイム = 50分
・水深28m+EAN32 → (何故かダイブテーブルに表記無し)
・水深28m+EAN36 → No Decoタイム = 40分
です。
水深30m付近は、EANxでもNo Decoタイムがそこまで増えた感じはありません。
が、20~28mあたりであればこれぐらいあれば満足に潜れるかなというNo Decoタイムになります。
No Decoタイムが40分ぐらいあれば、DECOの問題はほぼなくなります。
それより水圧で圧縮された空気を吸う事による「残りの空気残量の低下」が問題になってきます。
デメリット
デメリットは深い所に潜れない事です。
潜れる水深は、だいたい「30m以内」に制限されます。
酸素による活動水深の制限について(酸素中毒)
酸素を増やす事は万能な解決策ではありません。
酸素割合が多く、水圧で圧縮された空気を吸うと「酸素中毒」になるリスクが出てきます。
なので、酸素中毒にならないように体に入る酸素の量を制限する必要が出てきます。
この、酸素量の制限方法が「深い所に行かない」です。
【EANxの水深制限】
・EAN32 → 34m(33.8m)
・EAN36 → 29m(29.0m)
※1()の中の値は私が使ってるダイビングコンピューターを参考にしたもの。(i330R)
※2ちなみに、通常の空気はほぼ無限(56.7m)です。
この酸素量は酸素分圧という単位で表され、「1.4ata/bar」以内に留める事が推奨されてます。
(限界は「1.6ata/bar」ですが… おすすめはしません)
日本のエンリッチド・エアのほとんどは「32%」だそうです。
ただ… 測ったら1~2%ズレてる事があります。
普通の空気も水深30m以内が理想(窒素酔い)
では、深い所に潜るには普通の空気を使えば安全かというと… そうもいきません。
酸素中毒は回避できますが、窒素酔いという問題が出てきます。
↓によると普通の空気の場合、窒素酔いは水深31mぐらいから現れるとされてます。
ただ、窒素酔いは個人差があり、問題が起こらない事もあります。
そんな窒素酔いより、酸素中毒の方が危険だよねと言う事で…
深い所に行くときは普通のエア+他所のDECOが出て減圧停止する事を想定して行きます。
【酸素中毒の症状】
・いきなり、けいれんが起こる → 最悪、空気を吸えずに溺死
【窒素酔いの症状】
・酒に酔ったような感じになる
・判断力の低下
・ハイになる
・人によっては、ほとんど症状が無い
・視界がちょっと暗くなる感じがする(ガイドさんの体験談)
…など
→ 最悪溺死の酸素中毒より
ちょっと知能が下がる窒素酔いの方が命に係わる危険は少ない
このあたりの対処法、より深い場所に潜る為のノウハウは「ディープ・ダイバーSP」で解説されるようです。水深30m~40mに行きたい方はこちらを取得を検討してください。
AWOで水深制限は40mまで潜れるようになりますが…
AWOで行うディープ実習は18mを超えればokなので、行って水深22mぐらい
なので… AWOライセンスだけでは、実際に30m以降の経験をする事はほぼ無いです。
EANxの講習は酸素が多いという特性上、水深20~30mに行くことになります。
なので、水深30m以降に行く場面があるとすれば…
常連の付き合いが長いショップがあり、
そこのツアーで、ちょっと深場を狙いに行く時ぐらい。
AWOライセンスを取って “すぐに” 水深40mまで行きたいなら…
ディープダイバーSPの取得を検討してください。
また、水深40mの所にある、戦艦陸奥のレックダイブツアーは…
「ディープ・ダイバーSP」が必須条件になってます。(詳細はこちら)
ディープ・ダイバーSPについては… また、取ったら記事をまとめます。(ディープSP持って無いですが、39mまでは行ったので… 取るとしたら、陸奥行くときかな…)
どのタイミングで取るのがおすすめか
AWO以上のライセンスを取り、ダイビングコンピューターを買った後がおすすめ。
さらに言えば、水中で「DECO」を経験した後だとより理解が深まると思います。
エンリッチド・エアの目的は、水中での活動時間を延ばす事です。
この “活動時間を延ばす” はNo Decoタイムの制限を意味します。
↓なので、こちらのようなNo Decoタイム不足で悔しい思いをした後か…
悔しい思いをする前の事前の対策として取るのがおすすめ。
ちなみに、OWDの制限範囲「水深18m」では不要とおもいます。
というのも、水深18mだと、普通の空気でもNo Decoタイムは「56分」あります。
56分もあれば、普通に1ダイブ終えれます。
なので、この問題は気になり始めるのはAWDライセンス以上で水深18mより深く潜った時です。
OWD → エンリッチド・エアの順番はおすすめしません。(ほぼ使いません)
取るなら… OWD → AWD → エンリッチド・エアの流れになると思います。
筆記試験について
筆記試験はあります。
が… 内容は少なく、OWDの試験に通った方なら簡単だと思います。
【座学の内容について】
・エンリッチドエアを使う理由
・機材の注意点(エンリッチドエアを使う場合)
・酸素中毒にならないために
・タンクの酸素割合は必ず自分で見る事(酸素アナライザーを使う)
・ダイビングコンピューターの設定方法
・レスキュー関連(酸素中毒の症状について)
・実技でやる事の説明
※分かりやすいように見出しの名前を変えてます
ーーーーー
・知識の復習(全18問題 - 最終試験の1つ前の練習問題)
・最終試験(全25問)
内容はこれだけで、OWDの教材と比べると中身は1/10ぐらいです。
1~2日あれば、履修できると思います。
私は、DECOが出た時に色々調べた後で取ったので…
半日ぐらいで終わりました。
実技について
実は…
実技が無くてもライセンスは取れます。
①筆記試験に通った + ②エンリッチドエアの酸素量を測った時点でライセンスは獲得できます。
➂ 海でダイビング
ダイビング計画を立てる際に決めた減圧不要限界、最大深度、酸素曝露(露出)限界内でダイビングを実施します。
※本コースでは、エンリッチド・エアを使用してのダイビングはオプションです。
引用:PADI – エンリッチド・エア・ダイバー・スペシャルティ・コース
ただ、実際に使って見ないと “経験” にならず、イメージできないので…
基本は2ダイブで潜るまで、セットになってます。
特殊な事情が無い限り2本はエンリッチド・エアで潜ります。
私はエンリッチド・エアの講習で春の日和佐に、産卵のために水深20~30mまで上がってくるタカアシガニ狙いでエンリッチドを使って潜る計画で行きましたが…
現地に着いて、先に潜った人の話を聞いたところ、想定していた場所に居ず、
1ダイブ目はちょっと深い場所を探しに行く事になったので普通のエアを使用、
そして2ダイブ目のみエンリッチド・エアを使う…
みたいな形でライセンスを取りました。
状況に応じて、1ダイブは融通が効くモノぐらいと思ってください。
エンリッチド・エアの実技を受けた時の記録
実技は「日和佐のタカアシガニ」狙いで行きました。
春ごろに、タカアシガニが産卵のために水深20~30mに上がってくるそうです。
(紹介画像が無い時点でお察しですが、今回は会えませんでした)
これ狙い+講習の実技が今回行った私のダイビングです。
↓その時の記録はこちらにまとめてます。
この記事では、このダイビングのエンリッチド・エアに関する部分を掘り下げて紹介します。
日和佐に着ました。
こちらが、エンリッチド・エアのタンクです。
上の方に32%と書かれてます。これが酸素の割合です。
あと、ガイドさんの呼び方は「エンリッチ」でした。
(以降、この呼び方に合わせて書きます。)
そして、こちらが酸素計です。
まず、酸素21%の普通の空気で表示が「21%」になるように調整。
右側の所を回して調整しました。
(↓はガイドさんのお手本を撮影)
21%になれば、第一段階が完了です。
この状態で、酸素計にエンリッチの空気を吸わせます。
タンクに当てて、エアを開放する形で測りました。
タンクには32%と書かれてましたが…
測った所、36%でした。
なので、タンクの交換は… せず、
ダイビングコンピューターのFO2を「36%」に設定。
そして、なるべく深い所に行かないように注意する形になりました。
PO2は1.40に設定。
これで、行ける最大水深は「29m」までと分かりました。
別チームのタカアシガニダイビングに行っていた船が帰ってきました。
そして、狙いの水深20~30mポイントには居なかったという報告を受けました。
…
色々話し合った結果、ちょっと水深が深い別の候補地を目指す事になりました。(水深30~40m )
水深が深い場所に行くので、エンリッチドを辞めて普通のエアに変更。
そして、エンリッチドは2本目で使う事になりました。
実技が無くてもライセンスが取れる。
なので、こうした融通が効くのが良い所。
1ダイブ目は普通のエアで捜索。
実技は “オプション” なので、こういう融通が効きます。
普通のエアなので、No DECOタイムが短いです。
水深34.6mでNo DECOが6分。
最大水深39mまで行きました。
が、タカアシガニは見つけれませんでした。
そして、DECOが少し出ました。
多少、覚悟した上で、頑張ってDECOを回避しようしましたが…
やはり、浮力調整や水深の把握が難しいです。
事前の話し合いで、ガイドさんが深い所に潜るので、
私たちは少し浅い所でついていく計画でした。
ただ、今の水深が「浅い」か「深い」と判断するの判断が… 難しかったです。
(水深39mはガイドさんのストップで気づきました)
1ダイブ目は成果なしでした。
そして、DECO + 船酔い患者が大量に出たので長めの休憩。
そして、2ダイブ目へ。
2ダイブ目はエンリッチド・エアを使用。
撮影し忘れましたが… 2ダイブ目のエンリッチは
32%と書かれたタンクで “34%” でした。
水深29mでNo DECOが18分という安心感。
これがエンリッチの強み。
ただ、水深が31mを超えるとPO2警告が出ました。
酸素中毒危険ゾーンです。
そしてタカアシガニは… 見つけれませんでした。
これにて、実技が終了。
やる事は本当に普通のダイビングでした。
で… 一番の問題は、何でこんな「水深39m」や「PO2 1.40」越えのような余裕が無いダイビングを
やってしまったかというと… タカアシガニ狙いでかなり深い場所を目指したのと…
一番の原因は…
水深20~40mの景色が思ってた以上に変化が無くて気づけなかった事です。
水深39mはガイドさんのストップで気づきました。
気持ち、水深30mぐらいだと思ってたので焦りました。
PO2 1.40越えはダイブコンピューターのアラームで気づきました。
(良い子は真似しないでください)
突然ですが、皆様に問題を出します。
↓の3つの画像 (gif) はそれぞれ水深何mでしょうか?
正解は…
…
…
…
一番上が水深20m、真ん中が水深38mぐらい、一番下が水深30m。
真ん中は色がかなり青が濃いので、なんとなく深い事が分かりますが…
一番上と一番下はほぼ変化に気づかないと思います。
あと、真ん中の画像のような色は、水深よりも透明度の低下が原因で
青く写ってました。
なので… 見た目はほとんど参考にならず、体感では水深30mぐらいかな…?
と思った時には、すでに40m付近でした。
この分かりにくい変化が、グラデーション的に発生します。
注意して見ない限り、見た目では水深の変化にほぼに気づけません。
なので、こまめなダイビングコンピューターのチェックが重要になります。
以上が、エンリッチド・エアの実技を受けた時の記録です。
エンリッチド・エアは実際に “使う” モノなのか?
エンリッチド・エアは1タンクで+1000~2000円ぐらい追加でお金がかかります。
なので、熟練したダイバーはちょっとした節約のために、あまり使わないそうです。
普通のエアで浮力調整でDECOを回避するそうです。
ここで言う「熟練したダイバー」は… 500とか1000本以上潜って、
ダイブマスターやインストラクターの資格を持ってるぐらいの人です。
なので… エンリッチド・エアをおすすめする人は下記。
・DECOが気になりだした中級者以上の方
・写真や動画を撮る方
・間隔を開けず2ダイブ以上したい方
・次の日、飛行機や登山の予定がある方
【中級者以上の方の人におすすめな理由】
中級者になると、水深が深い所に行き始めます。
が… DECOの概念やDECOを回避するような浮力調整は難しいです。
なので、最初の方はエンリッチドを使った方が安全に楽しめる可能性が高いです。
ーーーーー
【写真や動画を撮る人におすすめな理由】
撮影する人は目当ての生き物が水深の深い位置にいた場合…
長時間そこに留まる必要が出てきます。
その、活動時間の確保で役立ちます。
ーーーーー
【間隔を開けず2ダイブ以上したい方】
休憩時間が短いと、体の窒素が抜けきりません。
なので、2回目のダイビングのDECOタイムは短くなります。
そこで、2~3回目のダイビングでDECOタイムを伸ばしたいという場面ではエンリッチの選択肢が有効になります。
ーーーーー
【飛行機や登山の予定がある人におすすめな理由】
ダイビング後、24時間は飛行機や標高が300m以上ある所は避けた方が良いとされてます。
なので… もしもの事を考えたら、安全策としてエンリッチドを使うのも1つの手。
減圧症の医療費や飛行機のキャンセル代を考えれば…
エンリッチドを保険的に使うのはアリ。
(飛行機で沖縄に行き、水深30mぐらいの所に2ダイブ行って、24時間開けて "すぐ" の状態で飛行機の搭乗予定がある場合など)
上級者~熟練者の人は水深によるDECO管理が上手です。
私はエンリッチの講習で、2ダイブ目はエンリッチを使って潜りましたが…
一緒に潜った、熟練者の上手い人は「普通のエア」で私と同じルートで潜ってました。
1人がエンリッチドを使ったら…
全員が使うというモノではないようです。
レベル差や目的の違いがあれば、一緒に潜るメンバーで
「エンリッチ」と「普通のエア」が共存します。
あと、凄い上手い人は、ちょっと体調が悪い時にエンリッチを使って…
濃い酸素を吸って体を整えたい時に使うみたいな感じでした。
(ただ、使いすぎると体がエンリッチに慣れるそうで…
スッキリ感を感じれるのは最初の方だけだそうです)
なので将来、使わなくなるとしても…
選択肢の1つとして持っていて損は無いモノです。
(エアで一緒に潜った熟練者のダイバーの方も、エンリッチのライセンスは持ってました)
まとめ
今回は、エンリッチド・エアSPを取った時の記録をまとめました
・エンリッチド・エアは酸素の割合が多い空気
・酸素の割合が多いので、No Decoタイムを伸ばせる
・デメリットは水深が深い場所にいけなくなる事
・主に水深20~30mで効果を発揮する
・取得タイミングはAOWを取り、ダイビングコンピューターを買った後がおすすめ
・実は、実技が無くても認定は貰える
・ダイビングの選択肢が増えるので持っていて損は無い
また、他にもダイビングや旅行の記録をまとめてます。
ぜひ、こちらもご覧ください。
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